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SOUND QUEST by 紅雪(Kohsetsu)

今西紅雪(音楽家・翻訳家)


by soundquest
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今西玲子インタビュー

※本文は2012年4月CELESTIAのサイト上に掲載されたインタビューを転載したものです

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今西さん初めまして、project.E,incの太田です。宜しくお願い致します。まず今西さんを初めてご覧になられる方々のために箏奏者までの道のりや海外での生活などをご紹介いただけますか。


初めまして、どうぞよろしくお願いします。
箏は母がしていたので幼少から親しんでいましたが、先生についたのは小学5年生になってからでした。4歳からピアノを習っていて、聴いた曲をわりとすぐ弾けたり、空想しながら即興で弾いたりできたので当時はそちらの方が楽しくて、箏はお稽古事という感じでした。箏が面白いと感じ始めたのは実は大人になってエレクトロミュージックやDJカルチャー、現代音楽など幅広い音楽体験を経てからです。それらの発想と箏の間に自然といくつも親和性や対比を見いだし始めました。

箏は原始的な本当にシンプルな構造の楽器で、フレットなども打たれていません。これが素晴らしいんです。この楽器は奏者の声の調子や精神に寄り添うように本来オープンです。毎回13本の絃にひとつずつ琴柱(ことじ)と呼ばれるブリッジを立てて音を作っていく作業はワクワクします。無の状態から音を見立て配していく自由。さらに左手で絃を押さえたり揺らしたりすることで音は自在に作れます。子どもの頃探していた鍵盤と鍵盤の間の音が無限にある。そんな自由やアナログの完璧に滑らかな美しさに気づいたのも、私の場合電子音楽などを通してでした。

その後、箏もピアノも離れてロンドン大学に留学したのですが、縁あっていつの間にやらイギリスでも箏とピアノが家にある環境になって、自然と周りのミュージシャンとセッションしたりしていたという。民族音楽学という学科にいたのでイギリス人の尺八奏者もいましたが、それはもうあらゆる国の民族楽器の演奏家がいて、シタールやタブラと一緒に演奏したのもその頃が初めてでしたし、アフリカのコラを少し習ったり、ヨーロッパで唯一だった沖縄音楽のバンドに入ったり、中国の古琴や韓国の伽耶琴、コムンゴといった箏の親戚と出会えたのもロンドンという国際都市ならではだったと思います。

一方でロンドンはクラブカルチャーや現代音楽のメッカでもあって、民族音楽と電子音楽と西洋のクラシック音楽が見事にごちゃ混ぜになって面白いシーンができていたりして、私も自然と古典だけでなくエレクトリックな箏を演奏したり、コンセプチュアルなパフォーマンスをしたりしてました。日本を出るまで、尺八、三味線の他はピアノやフルートくらいとしか共演したことが無かったですから、そうした環境はかなりエキサイティングで、箏という楽器について多くのインスピレーションを引き出してくれました。イギリスではエイジェンシーからの仕事を受けたりもしていましたがプロという意識はなかったです。

帰国してからしばらく演奏活動などしてなかった時期もあって、いつから箏奏者になったのか、なっているのかすら分かりませんが、2007年頃からいろんな方とのご縁で面白いプロジェクトに参加させていただくようになったりして、ここ2、3年はライブの数が次第に増えてきたという感じです。1ヶ月に11本ということもありましたけど、私は車の運転をしないので箏を抱えての移動が大変で、、、とにかく好きで夢中でやってきた気がします。


_ロンドン在住の時、現地の方々の箏の認知度、また初めて演奏された時のオーディエンスの感触はどのようなものでしたか。

詳しいことまで分からなくても、日本の楽器として箏の認知度はわりと高いんじゃないでしょうか。もちろん初めて実際に目にする方がほとんどなので大変喜ばれます。大人気です!ミュージシャンはすぐに、こんな弾き方はどうだ?とか言っていろんな弦楽器の奏法を箏に応用しようとしたり、抱腹絶倒のツールを使ってみせたりしてくれるんですが、これが毎回目から鱗なんです。私の変な奏法はたいていそんな外国人とのやりとりから生まれたものです。
たぶん日本人だとお箏は伝統楽器で気軽に触れてはいけないとか、難しいイメージが先行してしまうところが、外国人にはそういった既成概念が全くないので反応が本当に素朴で面白いですし、ハッと気づかされることも多いです。

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_経歴を拝見するに、色んなジャンルとのコラボレートを行なっておりますね。実際、箏を演奏する上で、ジャンルレスな音世界というものにどんな想いを抱いていますか。

それは私自身が、電線の網の目の上に広がる空みたいに、価値観や思想といったものを超えた真理という解放区はどこにでも広がっていると感じていて、今は音楽においても自然とそこへフォーカスが向けられている反映だと思います。
一方で、そうした世界の中で他と容易に和することのできない個性を思い知ったりと、箏という楽器の性質についてより深く理解していく過程であるように思います。

_私も電子音楽が好きで、TOMATOやWARPには沢山の影響を受けました。そこで今西さんの好きなエレクトロミュージック・アーティストを教えて頂けますか。

枚挙にいとまがないので、、、どうしましょ!
TOMATOは英国を代表するクリエイター集団ですが、Underworldもそのメンバーですよね。『Beaucoup Fish』はちょうど私がいた頃で思い出深いアルバムです。



当時私はTOMATOのファミリーのようなイギリスの気鋭ファッションフォトグラファーのクルーと一緒にいたのですが、このアルバムには彼らのホームパーティーでの声やふざけた台詞なんかも入っていて、できた時とても盛り上がったのを覚えてます。世界のアンダーワールドも本当に高層ビルなんかでなく、根を張った暮らしの中から音楽を創っているんだとリアルに感じました。

それからTOMATOのサイモン・テイラーたちがアンダーワールドとは全く別のアコースティックバンドを作るんだということで、その最初のアルバムに私も箏で少し参加しました。

Johnny Conquest 『Uptown For The Americas』



日本では京都と吉祥寺を結ぶ「涼音堂茶舗」というアンビエント系電子音楽レーベルの皆さんと色々共演させていただいてます。私も毎夏出演している京都法然院での「電子音楽の夕べ」や、温泉地で開催される「渋響」「鳴響」など、地域の風土と共に音楽体験が育まれていくような素晴らしいイベントも継続されています。バシッと硬派な電子音楽のアーティストと、アコースティック楽器や声を素材に電子音楽とミックスしているアーティストが良い湯加減で集っているのも興味深いです。

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_翻訳家としても活動しておられますが、どのような分野の訳をされておられるのでしょうか。

主に美術、音楽関連の日英和訳、英訳です。
音楽活動をこれほどしていない頃、NTT ICCや大阪府現代美術センターなどの企画展のカタログへの寄稿論文を英訳したり、作家のインタビューを訳したり、DJ Spookyの音楽論、ポール・D・ミラー(a.k.a. DJスプーキー)著『リズム・サイエンス』(青土社、2008年、上野俊哉との共訳)の和訳などとても興味深いお仕事をさせていただいてきましたが、近年は音楽の方が忙しく、まとまった時間がとれないのが悩みです。いくつか書籍翻訳もお声がけいただいていて、またじっくり取り組みたいと思っているのですが、、、。

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_今西さんは感性豊かで好奇心もかなりのものだと感じました(笑)。音楽活動に限らず今一番やりたいことはなんでしょうか。

旅です!ロンドンから帰国してから、次に海外に行くとしたら演奏家としておもむきたいという思いもあって、日本をほとんど出ませんでした。箏というのが足かせになっていたのと、帰国後は自分の内面で文化的分裂があったので少し時間が必要でした。

でも今年は国内外いろんなところに行けそうです。3月末に新婚旅行でアリゾナ州セドナからモニュメントバレー、グランドキャニオンに行ってきました。アメリカは初上陸でしたが、カセドラルロックの頂上から見た広大な乾いた赤土と緑の景色や、オーククリークのほとりでネイティブインディアンと話したこと、歌や笛や太鼓のセッションを受けたこと、本当にすごい体験でした。実はこれまでにもバンジョーと箏のデュオをしたり、1月にはアカデミー賞を受賞したアメリカンフィドル奏者、ケイシー・ドリーセンを招いてのグラスルーツのイベントのお手伝いをしたりと、アメリカのルーツミュージックにも多少触れていたのですが、行って初めてこれだー!と感激しました。

今後の予定は、4月中は東京でいくつかライブがあって(旅のきっかけはこの『Tuning for Life Concert』です!)、4月末からゴールデンウィークにかけては福岡と長崎で初の演奏活動が、5月は京都と神戸で、6月にはなんとまたアメリカロサンゼルスで本当に初の海外公演が実現しそうで楽しみです。
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interviewer:sin Robin ota (in project.E,inc)
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by soundquest | 2012-04-04 00:20 | 執筆/ writing | Comments(0)